こんにちは、山本です。
先日、ある政府文書の「名前」が変わりました。経済産業省が4年ぶりに改訂した「蓄電池産業戦略」が、「蓄電池・電源産業戦略」になった。たった3文字、「電源」が足されただけです。でも、系統用蓄電所を現場で手がけている私には、これがかなり大きな転換に映りました。今日はそのひとりごとを。
何が変わったのか
2026年6月2日に公表された改訂版は、目標の桁が違います。国内製造基盤を2030年代半ばに150GWh/年へ。日本企業の蓄電池関連売上高を2025年から2035年で3倍・約5兆円へ。そのための官民投資は3.4兆円(部素材1.3兆円+電池製造2.1兆円)。全固体電池も2030年頃の本格実用化を掲げています。「産業を守る」から「電源として育てる」へ、国の本気度がはっきり出た改訂です。
なぜ今、「電源」なのか ── 背景を複眼で
理由は一つではありません。私は3つの力が重なったと見ています。
ひとつは、中国の過剰供給。安い電池(LFP系=リン酸鉄リチウム)も高性能な電池(三元系=ニッケル等を使うタイプ)も作りすぎていて、世界の電池価格を押し下げている。安く手に入る追い風であると同時に、国内産業には逆風です。ふたつめが経済安全保障。推進法に基づき、部素材から製造装置までサプライチェーンを国内に張り直す動きが加速しています。みっつめが、AIデータセンターの急拡大。膨大な電力を安定供給する「電源としての蓄電」需要が、現実の数字として立ち上がってきた。だから国は、エネルギー密度だけでなく「パワー密度(出力)」で勝負する、と腹を決めたわけです。
これからどう動くか
数字で見ると流れははっきりしています。国内の系統用蓄電池は2030年に14〜24GWh規模へ。世界市場は2030年に500億ドル超、年率20〜25%の成長見通し。接続検討の受付はすでに約1,200万kWに達しています。供給は爆発的に増える。一方で収益は市場制度に左右される。だからこそ、安さに飛びつくより「どう運用して稼ぐか」の設計力が、事業者の分かれ目になると考えています。
では、電力会社の系統(インフラ)はどうするのか
ここが一番の本丸です。蓄電池をいくら増やしても、電気を流す送電網が細ければ意味がない。OCCTO(電力広域的運営推進機関)の広域系統マスタープランは、2050年までに最大約7兆円の系統投資を見込んでいます。北海道〜東北〜東京を結ぶ海底直流ケーブルの新ルートだけで約3兆円。北海道地内1兆円、東京6,700億円、東北6,500億円と続きます。
ただ、線を太くするには時間がかかる。だから当面の現実解が「ノンファーム型接続」── 先につないで、混雑したら出力を絞る運用です。本格的な計画値制御の運用には5〜7年かかると国も認めています。その間、申し込みは殺到していて、2024年度の接続検討は14,276件と前年の倍。うち系統用蓄電池が9,544件で、前年の約6倍に膨らみました。あまりの殺到に、2026年1月からは登記簿など土地確保の証跡提出が必須化され、「空押さえ」対策まで始まっています。
国は「線(送電網)」を太くするのに7兆円と四半世紀をかける。その一方で、当面は蓄電池に「待つ・ためる・流す」を担わせる。本来、再エネを伸ばすなら送電網そのものの増強が欠かせない──そう思っています。ただ、それには時間もお金もかかる。だからこそ、その橋渡し役として蓄電池が前に出てきた。蓄電池は単なる商品ではなく、「作る政策」と「使う政策」の両輪で国に位置づけられつつある。これが「電源」格上げの本当の意味だと、私は受け止めています。
名前に「電源」が入った日は、蓄電池が脇役から主役になった日でもあります。大きな流れの中で、現場の一事業者として何を選ぶか。静かに、でも前のめりに考えています。
山本
【参考・出典】

